対談テーマ:中小企業のメンタルヘルスを支えるため何ができるか?

2013年12月、中小企業の健康経営を支えることを使命として「一般社団法人 中小企業EAP普及推進協議会」(ネクスティープ)が設立されました。これを記念してネクスティープ代表の宮川浩一と顧問に就任された精神科医・作家の奥田弘美先生に対談して頂き、事業に対する思いと抱負について語って頂きました。 

プロフィール

奥田 弘美

精神科医・日本医師会認定産業医・作家 

一般社団法人 中小企業EAP普及推進協議会 顧問

平成4年山口大学医学部卒業。精神科医としての臨床診療、および産業医活動を行いながら、執筆や講演にてメンタルヘルス改善や心の元気アップ法を提案している。著書には「部下をうつにしない上司の教科書」(東京堂出版)、「自分の体をお世話しよう~子供と育てるセルフケアの心~」(ぎょうせい)、「草食系ビジネスマンのためのストレスフリー仕事術」(草思社)、「心のネガティブを消してしまう思考のヒント」(ぱる出版)、「心の毒がスーッと消える本」(講談社)など多数。

宮川 浩一

一般社団法人 中小企業EAP普及推進協議会 代表理事

中央大学卒業後、外資系生命保険会社を経て2011年株式会社ウィザード執行役員に就任。201212月、中小企業EAP普及推進協議会を設立。保険会社では主に顧客サービス部門の責任者としてオペレーションの変革に取り組み、人材育成、組織開発等にも貢献。また、中央大学大学院戦略経営研究科(MBA)において経済学、経営学的アプローチによりEAP(従業員支援プログラム)の研究に取り組み、中小企業EAPのビジネスモデルを提唱。現在は中小企業のメンタルヘルス対策のコンサルティング、労務問題対策、研修、カウンセリング等のEAPサービスを提供している。

 

 

うつ病にかかるビジネスマンの多くは真面目で優秀な方。本人は辛いでしょうし職場は混乱します。 うつ病にかかってからの対応では遅過ぎます!(奥田)

宮川:

今回、ネクスティープの顧問に就任頂き、ありがとうございます。

奥田:

よろしくお願いします。

宮川:

設立して間もないネクスティープに快く就任して頂いた理由についてお聞かせください。

奥田:

これまで精神科医として、うつ病治療に携わってきました。うつ病にかかるビジネスマンの多くは真面目で優秀な方です。うつ病にかかると平均で5~6か月は休まなければなりませんので、本人は辛いでしょうし、職場は混乱します。うつ病にかかってからの対応では遅過ぎるのです。そういうことで本や雑誌の執筆を通して予防に関する啓蒙を続けてきました。しかし、精神科の外来で待ってる自分は病気になってしまった人しか対応できない。そこで職場に近い産業医の仕事を始めました。産業医の仕事を通して職場で起こっていることの実態が見えてきて勉強になったのですが、結局、うつの方の復職面談だったり、過重労働面談だったり、予防的なことが十分できず、限界を感じていました。もっと未然に防ぐための活動ができないか?でも、ひとりではできないし、仲間がほしいなと思っていたところにお声掛け頂いたのです。宮川さんのお話をお聞きしたら、渡りに船と言うか、自分が思い描いていたことに近いので、やっと仲間と活動できると思い、引き受けました。

宮川:

そういうことで、ご賛同いただけたのですね。

奥田:

はい。後手後手にまわるのではなく予防していくのが大事だと思っていました。しかも一番整備が遅れている中小企業を対象にすることは、とても良いことだと思いました。大企業では、ある程度、産業医や産業衛生のスタッフがいたり、整備できていますが中小企業の殆どは無策だと思います。…でも1000人規模の結構大きな企業も遅れているところあるので、そういうところも手広く切り込んでほしいです。(笑)

 

今、中小企業の労働環境は非常に厳しい状況に陥っています。そこで我々が中小企業のメンタルヘルスをしっかりサポートし、それによって経営者、従業員とその家族、それに繋がっている地域社会に貢献していきたいと思っています。(宮川)

宮川:

多分、期待値も大きいと思いますので、我々もしっかり受け止めて取り組んでいきたいと思います。私が実際にこういう取り組みをするきっかけになったのは、前職でメンタル不調に陥る人が年々増え、職場環境が、かなり影響していると感じたことでした。なんとか改善できないかという思いが募り、カウンセリングや精神衛生に関して勉強し、大学院で研究調査も行いました。そこでわかったことは、中小企業の場合、専門人材がおらず、どうやったらいいのか、わからない。わかったとしてもコストがかけられないという現実でした。そこで中小企業に低コストで尚かつ質のいいサービスを提供できないかと検討し、事業の構想を練ってきたのです。

現に中小企業が加盟する協会けんぽ(全国健康保険協会)が発表した2011年度の統計では、「精神疾患」が原因で傷病手当金を受けた方が全体の26%を占め、癌に代わって1位になりました。自殺者は若干減ったとは言え、企業の環境は、過重労働であるとか、リストラ、退職勧奨などが増え、非常に厳しい状況に陥っています。中小企業においてはメンタルヘルスをしっかりをケアしていかないと企業の生産性の低下が懸念されます。そこで我々がしっかりサポートして中小企業を支え、それによって経営者、従業員とその家族、それに繋がっている地域社会に貢献していきたいと思っています。

奥田:

素晴らしいですね。 

宮川:

ありがとうございます。

 

せっかく育てた人財を無理させて潰している会社が多くて本当に残念。 経営者の方は、それに気付いてほしいです。(奥田)

宮川:

ところで奥田先生は多くの著書をお持ちですが、今回出版された「部下をうつにしない上司の教科書 メンタルダウンを防げ!」(東京堂出版)は何冊目の本なんでしょうか? 

奥田:

数えてないので、はっきりわかりませんが、おそらく20冊ほどだと思います。これまでは女性向けの心のケアの本や、草食系ビジネスマン向けの本などソフトな内容が多かったのですが、今回、初めて産業医としての立場から会社のメンタルヘルスをテーマにした本を書きました。実は精神科の外来をやっていたころから、このテーマで書きたかったのですが、産業医になってから現場の経験を積み、ちゃんと現実を知った上で書けた点は非常に良かった思います。 

宮川: 上司とは中小企業の場合、経営者も含めた表現だと思いますが、いわゆる管理職に、どういうことを訴えたくて、どのような思いで書かれたのでしょうか?
奥田:

人材の材は財産の財だと思うんですよね。日本の企業は外国の企業とは違い、まだ終身雇用の風土も残っているし、新人の頃から名刺の渡し方やお辞儀の仕方からじっくり社員教育をしていますよね。それなのに、やっと一人前になってから無理をさせて、うつにしてしまっている企業が多い。せっかく一人前になったのに非常にもったいないと思うのです。
勤める会社が自分の財産だと思っているような真面目で一生懸命働いている方ほど無理をし過ぎたり、長時間働き、ストレスを発散できなくて、うつになるんです。財産を自分で育てて、自分で潰しているような会社が多くて本当に残念です。経営者の方は、それに気づいて、自分で育てた財産を、もっともっと大きく育て上げて、コンスタントに活躍できるような人財に育て上げてほしいです。それこそメンタルヘルスIQを高めるということだと思います。

ご存じないかもしれませんが、先天性の精神疾患と異なり、うつ病は防げるのです。その人の性格に原因があるのだとか、悪い偏見を捨て、勉強して頂いて、防げるうつ病を無くしてほしい思います。

 

「部下をうつにしない上司の教科書」は基本書。ネクスティープの事業のベースとして実践していきたいと思います。(宮川)

宮川:

先生が書かれた本は精神医学など難しい内容を素人でもわかりやすく整理されていて、まさに基本書だなと感じました。失礼かと思いますが最初は地味なタイトルだなと思いましたが(笑)、読み進めていくうちに、私も、この内容を経営者や管理職に読んでほしいと思うようになり、タイトルがとてもフィットしていることに気づきました。それに我々EAPなど産業保健にかかわる人にとっても必要なことが押さえられていると感じました。我々ネクスティープも、この本で推奨している取り組みを事業のベースとして企業に対して顔の見える形で実践していきたいと思います。そういう意味では、これから我々がやろうとしていることと先生の本の内容は本当にフィットしていますね。

奥田:

ありがとうございます。とても嬉しいです。出版のタイミングと顧問のお誘いがあったタイミングがばっちりだったので運命的な出会いのようで喜んでいます。(笑)

宮川:

先生の本の内容は、どちらかというと中小企業向けかなと感じています。

奥田:

そうなんです。経営者の方にも読んでいただきたい。経営者も上司ですよね。人を使っている方は絶対一回は読んでほしいと、ちょっとおこがましいですが、そう思っているのです。(笑)

宮川:

産業医であり精神科医である奥田先生は現場の視点と専門的な視点から見ることができますから、両方の視点からアドバイスし事業をサポートして頂けると助かります。

 

中小企業は経営者と従業員が顔の見える関係にあります。同じように我々も顔の見える関係で支援していくことが大事だと思っています。(宮川)

宮川:              

我々は、まずは首都圏を対象に地域に密着した形で、この事業モデルを着実に推進していきたいと思っています。そして首都圏で、この事業を有効に運営し、しっかり定着することができれば、次は全国の中小企業に展開していきたいと思っています。やるべきことは沢山ありますが、しっかり確実にやっていきたいと思います。 

奥田:

中小企業の課題は首都圏だけでなく日本全体の課題ですからね。中小企業に対しては地域に密着したサポートが必要ですよね。

宮川:

はい。中小企業は会社の中で経営者と従業員が顔の見える関係にあります。同じように我々も顔の見える関係で支援していくことが大事だと思っています。そうすることによって経営者、従業員のモチベーションを高め、メンタル不調に陥らない快適な職場環境を築く支えとして末永くお付き合いしていきたいと思います。珍しい中小企業向けのEAPだからといって決して奇抜なサービスを行うのではなく、昔から言われているけど、なかなかできなかった地道なサービスをしっかりと提供していくということが大事だと思っています。

 

中小企業を対象にする場合の課題として、コスト負担を減らすため、料金を安く抑える必要があります。そのため研修に関しては複数の中小企業に集まって頂いてオープン研修として開催します。しかし、違う企業の方が一同に会して情報交換する場になりますので、中小企業同士が互いに共有・共感し、モチベーションを上げていくという効果があると思います。こういう環境をネクスティープの特長として提供していきたいと考えています。

 

中小企業が集まって情報共有すればリスクに対応していける。(奥田)
参加者全員に役立つ情報交換の場を作っていきます。(宮川)

奥田:

中小企業の場合、従業員数が少ないので、個々ではメンタルヘルスに関する経験や知識は限定的になりますね。その点、中小企業が集まって共有すると網羅性があり、今起こっている問題だけでなく将来起こり得るリスクに気づき、対策を講じ、対応していけるのではないでしょうか?

宮川:              

そうですね。地域の精神科医、社会保険労務士など専門家の協力を得て知見をシェアすると共に、中小企業同士が自社の課題や取り組みなどを共有できるよう推進し、参加者全員に役立つ場を作っていきたいと思います。

勿論、悩み事相談窓口や対面カウンセリングなどEAPの基本的なサービスは中小企業にもニーズがありますので、我々もしっかり提供していきます。従来型のEAP業者の料金は従業員数が少ない小規模な事業所の場合、割高になるので敷居がありました。我々は従業員数に比例した料金体系としていますので従業員数が少なくても無理なく導入できます。もちろん低料金でも高品質なサービスを提供します。 

そして地域に貢献することも我々のミッションです。産業保健推進センターやメンタルヘルス対策支援センターなど中小企業のメンタルヘルスをサポートする公的機関とも連携していきたいと思います。公的機関は基本的には個々の課題について単発の対応になります。我々は公的機関ができない継続的なサポートを行いカバーしていきたいと考えています。

ぜひ多くの中小企業に参加していただき、メリットを実感して頂きたいと思います。

頑張りますので、今後ともご協力をお願いいたします。

奥田:

招致しました。よろしくお願いします。

 

 

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